施設訪問記 さつま動物病院
2019.11.18
鹿児島県いちき串木野市で老犬ホームを併設している動物病院「さつま動物病院」を訪問し、院長の鉾之原さんにお話を伺ってきました。
長年獣医師として全国の様々な動物の診療にあたっていた鉾之原さんは、13年前に故郷である鹿児島でこちらの病院を開院されました。
お勤めの頃は公的機関に所属されていたため、犬猫といったペットだけでなく、小さな鳥から大きな動物まで幅広く対応されていたのだそう。数多くの症例を見てきた豊富な経験と、何かあった時にすぐに処置ができるのは動物病院が運営している預かり施設ならではの利点であるといいます。
日々診療をしていると、「もうこの子はダメなので、これ以上苦しまないように安楽死させてください」という飼い主が少なくないそうです。しかし、さつま動物病院ではそういった依頼を受けても断っているとのこと。
苦しんだ末に死なせてしまうよりは、命が尽きるまでの間、できるだけ苦痛を和らげてあげることに自分の知識や技術を注いであげたいと思ったのが、老犬ホームを始めるきっかけになったそうです。
鉾之原さんはこれまで獣医師として従事してきた中で、数多くの老犬とその飼い主を見てきました。
「寝たきりになった子のお世話を一生懸命やってらっしゃる飼い主さんはもう本当にこちらから見ても大変だろうなというのが分かります。毎晩夜鳴きで起きて、床ずれにならないように動かしてあげて、というのが何ヶ月も続いて。そこまでしても皮膚が破けてしまって縫ってあげたこともあります。昼間は飼い主さんの方には仕事がありますし、ペットも飼い主さんもお互いに余裕がなくなってしまいますよね。」
昔のように常に家に誰かがいてペットのお世話ができるという家庭が減ってきたこと、ペットの寿命が延びてきていることなどから、こうしたペットの介護による飼い主の負担が増えてきているように感じるといいます。
「愛犬が苦しんでいる姿を見るのが辛く、つきっきりで介護はするけれどどうにも良くなっていかないし、自分の体力も限界で…と安楽死が頭をよぎる気持ちも分かりますが、私の方では病気の苦痛をできるだけ取り除いて穏やかに余生を過ごせるよう治療していくことができるので、悩んだらぜひ相談して欲しいです。」
病気の苦痛から動物たちを解放してあげたいと獣医師を志した鉾之原さんですが、様々な動物たちの診療を続けてきた今もその気持ちは変わらず、老犬においては適切な治療によってQOL(生活の質)を向上させ、それぞれの人生をまっとうさせてあげたいと考えています。
長年臨床の最前線で診療を続けてきた鉾之原さんの一言一言はとても重く、心に響くものがありました。
飼い主の責任とはよく言われる言葉ですが、その責任を重く捉えすぎずに、愛犬の介護に不安を抱えた人がまず相談することができるこのような施設がもっと増えて欲しいと切に感じた今回の訪問でした。
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